ロコモ サルコペニア

整形外科医が中高齢者にこそ筋トレを勧める訳。

中年以降に健康のために運動を何か始めるといえば有酸素運動であるウォーキング、エアロバイクなどが代表的です。しかし、筋トレを加えることを考えましょう。
なぜなら30代以降は筋肉は減る一方だからです。
筋肉は健康に必須であり健康は人生に影響してきます。
いかに筋トレが必要かというところの理解から深めていきましょう。

なぜ中高齢者に筋トレは必要なのか

①要介護原因

要介護の原因で”転倒・骨折”と”関節疾患”を合わせると1/4に達してしまいます。まさに整形外科疾患です。転倒・骨折予防に筋トレが必要ということは想像に難しくないと思いますが、関節疾患を膝・股関節などの大関節と考えるとやはりリハビリ・治療としての筋トレは関節疾患にも有用であり必須です。
高齢による衰弱という理由も13%で多いですが、ここにもロコモティブシンドローム(移動能力の低下をきたし、進行すると介護が必要になる状態;通称ロコモ)、サルコペニア(加齢による筋量・筋力の低下)、フレイル(高齢期に生理的予備能が低下した状態;衰弱の前段階)という概念が関係してきますし、さらに要介護1位の原因は認知症(17.6% 2019年)ですが、運動による脳への刺激により認知症の予防・改善が期待でき、メンタルヘルスへの効果もあるとされています。

②30代以降は筋肉は落ちる一方

一般には特に運動をしなければ30歳ごろより筋肉は減少していき、60歳まで年間0.7%のペースで減少し、60歳以降は加速し年間2%となる(80歳での最大筋力は60歳時の半分となってしまいます)。全身持久力は20歳から年間1%で低下すると言われています。日々の生活では気づくことはできませんが、30代以降の人は私も含めみんな。。。

③筋肉は糖・脂質代謝にも関わる

筋力トレーニングを継続的に行うと、骨格筋量が増え、基礎代謝量が上昇することはもちろんのこと、心疾患や脳血管疾患への予防効果があります。骨格筋は血糖値の調節も行っており、骨格筋量の増加は糖尿病の予防にもなります。骨格筋収縮は骨芽細胞の活性を高めることで骨密度を高めます。

④健康は人生の満足度に関わる

2020年のとある雑誌からのアンケート調査・評価で(40代以上の方対象)、”幸福と関係が深いものはなんですか?”の問いに対し1位は健康(77%)、2位は家計の状況(70%)であった様です。別の調査において企業等で正社員として働く40~50代の男女を対象に行ったこの調査において”幸福感を考える場合に大切だと思う条件”の問いに対し、1位経済的ゆとり(男性:66.4%、女性:70.6%)、2位健康(男性:54.4%、女性:70.2%)と同様の結果であった様です。
今だけでなく人生を全体で捉えないといけないと考えさせられます。

どうしたら良いか

①筋トレをとにかく始めるしかない

‟筋トレが必要なんてこと知っているよ”であったり、上記を読まれて‟必要なことは何となくわかったけどやり方がわからないし”という意見はあると予想されます。
変形性膝関節症(ご高齢の方の膝が痛い原因によくあるやつ)の方にも膝周りの筋トレが推奨をされています。私も普段整形外科医として仕事をする中、外来で必要性を説きますがなかなか実行してくれる方は少数というのが現状です。後々やれなかった理由を聞いてみると、やはり何をしたら良いかわからなかったという意見が多いです。
今はSNSなどを通じていくらでも手軽にかつ無料でトレーニングの方法を学べます。‟これなら”という自身にとって手軽なものからまずはスタートをきることがとにかく重要です。
特に当てがない方はロコトレがいいでしょう。

②筋トレを継続し習慣化する

WHOのガイドラインでは18歳から64歳の一般成人は「1週間で150~300分の中強度の有酸素運動、もしくは75~150分の高強度の有酸素運動、もしくはその組み合わせで同等の時間・強度となる運動を実施し、1週間のうち2日は中強度以上の負荷をかけた筋力トレーニングを取り入れるべきである」とされています。
65歳以上の方では、同様な運動実施を推奨し、かつ加えて「1週間のうち3日は身体的なバランスや筋力を維持するための複合的な身体活動を行い、転倒を予防すべきである」とされています。
つまり、健康で満足度の高い人生を送り続けるためには運動、筋トレを習慣化し継続していくしかないのです。
もちろん限られる時間の中で運動・筋トレに追われる生活も人生を楽しめません。そのために何が必要で適切で効果的でかつ飽きずに楽しく継続できるかを考えていかなければいけないと思っています。

まとめ

①筋肉は健康に必須と言えます

筋肉がなければいずれ寝たきりとなり広義では死亡にもつながります。そうでなくても筋肉の減少は内科的疾患にも悪影響を及ぼします。そして病気にかかった時にようやく人は後悔します。”もっとやっておけば良かった…”と。しかし何もしなければ我々の筋肉は勝手に減っていく一方なのです。

②運動・筋トレをするしかない

結局のところ筋肉の減少は老化現象のひとつです。アンチエイジングと聞くとくいつく人が多いのに、筋トレは敬遠されがちです。筋トレを含めて運動はしていくしかないのです。何事も始めることでしか結果は出ません。正しき知識・理解をもって始め、効果的で楽しい筋トレを習慣化できるようにしていきましょう。

ABOUT ME
jack-wall
現役の中堅整形外科医です。日本整形外科学会専門医。専門は肩と膝です。 筋トレ歴は20年ほど。 日々いかに整形外科医として成長し、ヘルスケアも意識しながらの継続的な筋トレが行えるかを考え邁進しています。