トレーニング論

整形外科医がサイドレイズの腱板損傷リスクを考えてみる。

三角筋のトレーニングといえば今も昔も変わらずサイドレイズがありますが、頑張りすぎて肩に悪そうなフォームでやっているのをよく見かけます。

三角筋はとても大きな筋肉でありしっかり鍛えていきたいところですが、怪我をしてしまっては元も子もありません。

特に腱板の怪我はかなりやっかいな怪我、場合によっては治せない怪我ともなりえます。

今は良くても10年後、20年後に後悔しないトレーニングを考えましょう。

サイドレイズの可動域には限界があります。

昨今の筋トレブーム、特に‟フィジーク”の人気が強いことの影響でしょうか、ジムで三角筋のトレーニングをしている人をよく見かけます。

中でもサイドレイズは三角筋のトレーニングとして今も昔も変わらず人気を博しています。

しかしサイドレイズを行っている人の中では肩関節を120度以上も上げている(外転)ような人がいますが、明らかにサイドレイズの可動域の限界を超えてやってしまっています。

途中から三角筋ではなく僧帽筋に効いている感じがしていることでしょう。つまり僧帽筋を使って肩甲骨を動かして挙上しているのです。

限界を超えるとインピンジメント、腱板の怪我につながりかねます。

僧帽筋ばかりに効いてしまっている自覚があるのであれば黄色信号です。

チカラの入れ方、やり方の問題の可能性もありますが注意が必要です。

サイドレイズのような肩甲上腕関節(肩関節)中間位のままで外転させる場合は90度も挙上すれば上腕骨の大結節(腱板の付着部)が肩甲骨の肩峰とぶつかります。
つまりインピンジメントという状態になります。

インピンジメントで炎症・痛みを起こせばインピンジメント症候群、さらに先に進んでしまえば腱板断裂にもつながりえます。

高齢者の1/3は自覚なく腱板断裂をしています

住民健診などの調査では腱板は50歳台で10人に1人、80歳台では3人に1人が断裂しているとされています。

そんなに?と思うかもしれませんが、腱板断裂をしていても症状がある人は半数ということも背景にあるのでしょうが、本人も自覚がない中で肩の可動域や筋力の低下はあります。

若い人で腱板を切るような人は頭上での作業があるような仕事をしている人や、野球やバレーボールといったオーバーヘッドスポーツをされている人に多いです。

もちろん筋トレも例外ではないでしょうが、腱板とはそれだけ脆弱な筋肉ということにもなります。

将来は腱板断裂患者が増加する?

わたし個人的な意見ではありますが、昨今の筋トレブームの結果、将来的にはインピンジメント症候群や腱板断裂の患者が増加していくとふんでいます。

インピンジメント症候群や軽度の腱板断裂であれば治療もしやすいですが、進行した腱板断裂の治療は困難を極めます。最悪、人工関節しか選択肢がないなんてことも実際に多いです。

自覚症状の曖昧さも相まっていつしか臨床の場で筋トレが原因の進行した腱板断裂に出会う日も遠くないのかと危惧しています。

自身の限界を知ってみましょう。

実際に自身の可動域を知ってみましょう。

①座ってでも立った状態でも良いですが、手を‟気をつけ”をした状態にします。

②反対側の手で計測したい方の肩の肩峰(肩の外側の最も出っ張った骨)を押さえます。

③手を‟気をつけ”の状態のまま肩を真横に開いていきます。
※手のひらは途中から下を向いた状態になります。

④肩峰が動かなければ恐らく90度ほど外転で上がらなくなると思います。
つまりその時点で衝突が起こっている位置になります。

⑤頑張れば90度以上の外転もできると思いますが、反対側の手を意識してもらえば肩峰・肩甲骨が動いているのがよくわかると思いますが、この時、肩甲骨は三角筋ではなく主に僧帽筋で動いています。

外旋すればインピンジメントを避けられるが…

でも普段は180度なり腕を上に挙げていますよね?
我々は自然と肩を外旋して挙上しています。

肩を外旋(手のひらを外側に向ける)することで上腕骨の大結節という腱板の付着部が後方に回ることでインピンジメントが避けられていますが、サイドレイズの時は外旋して行いませんのでインピンジメントが避けられません。

上げ過ぎても良くて僧帽筋に効くだけ

実際にやってみてわかったと思いますが、肩を外旋しなければ肩を外転できる可動域はあまり広くありません。

筋トレの基本原則である‟最大可動域”を意識するがあまり肩の安全可動域をオーバーしてしまっている可能性があります。

安全可動域を超えても僧帽筋など三角筋以外の筋肉への負荷は増しますが、三角筋への負荷はあまり増えないという悲しい実情もあるのです。

有名youtuberも切っている

最近(2022年10月)ですが、とある有名な筋トレ系youtuberも腱板断裂を告白しています。
大会に出るようなハイレベルの方でありトレーニングもハイボリュームであったと思われますが、怪我にも注意を払っていたと予想されます。

それでも腱板の怪我というものは発生していまうのです。

将来を見据えたトレーニングを心掛けましょう

本サイトではあくまでもヘルスケアを目的としたフィットネスを目標としています。

三頭筋自体は上半身で一番大きな筋肉でありダイエット・ボディメイクにおいて積極的に鍛えていきたい部位と考えますし、サイドレイズ自体も三頭筋をターゲットとした良い種目とも考えますが、怪我をしてしまっては元も子もありません。

若いうちは‟多少の痛み”としてあまり大きな問題と考えず怪我のリスクを甘くとらえがちです。

しかし腱板断裂は時に取り返しのつかないぐらいの怪我となりえる怪我ですので年齢に関わらず怪我を配慮したトレーニングを行っていく必要があるでしょう。

まとめ

①サイドレイズの可動域が広すぎると危険です。

三頭筋をターゲットとしたサイドレイズの可動域は思っているより狭いことが多いです。無理に可動域を広げても僧帽筋などに効くだけで、腱板損傷などの怪我のリスクが増えるだけで危険です。

②腱板損傷は自覚に乏しく、治療に難渋することもあります。

高齢者では自覚症状なく腱板が切れている人が多いです。病院に行った時にはすでにだいぶ進行しているという事態も起こりえます。腱板が広範囲で切れてしまっている場合は治療に難渋することが多いです。

③自身の可動域を知り、安全を意識したトレーニングを行いましょう。

どこまで腕を上げたらインピンジメントが起こるのか、無理して挙げても肩甲骨がメインで動くだけということを実感し、安全を意識したトレーニングを実践していきましょう。

ABOUT ME
jack-wall
現役の中堅整形外科医です。日本整形外科学会専門医。専門は肩と膝です。 筋トレ歴は20年ほど。 日々いかに整形外科医として成長し、ヘルスケアも意識しながらの継続的な筋トレが行えるかを考え邁進しています。